誤って高圧の変圧器に触れてしまった 秀一は以来 電気を蓄積する体に・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
                (プロローグ)

げっ!!
どう見ても この格好は オムツ姿のアブナイお兄さんだろ ?
事の起こりは 1ヶ月前に遡る ・・・
「 ううーん 」
「 秀ちゃん、母さんのこと解る 」
 目を覚ますと 聞き慣れない電子音が辺りを支配していた
「 看護師さん 秀一が、 秀一の意識が戻りました 」
「 先生を呼んできます 」
 暫くすると 白衣を着た医師が傍らにやって来ては
 俺の目にライトを当てながら
「 おはようございます。 目が覚めましたか ? 」
「 随分と長くお休みでしたよ 気分はどうですか 」
 俺はまだ ぼんやりとした自分の記憶の糸を辿り 思い出していた
俺の名前は 沢嶋 秀一 今年大学を卒業後
就職先の電力会社の変電所に配属されて 三日目の事だった
誤って 変圧器に体が触れた途端 意識と共に空を飛んだ様な・・・
「 先生 俺は、」
「 秀一さんは 二日間意識が戻らなかったので 私共も心配しておりました 」
「 今 何処か痛いところ等有りませんか 」
 ・・・
「 さし当たって 痛みを感じる所は無いのですが 体全身がだるいです 」
「 あと、一週間程度 様子を見て 異常が無ければ退院できますよ 」
「 もし 何かあれば すぐにナース・コールを押して下さいね 」
母「 先生 ありがとうございました 」
「 それでは 失礼致します 」
「 秀一 母さんは夜も眠れないほどに心配で、心配で、」
「 小枝子さんも 毎晩 お見舞いに来て下さっていたのよ 」
「 そうだ、早速 お父さんと小枝子さんに メールしとかなきゃ 」
母の言葉は聞こえているのだが 俺の体は
 まだ眠り足りないのか また静かに睡魔がやって来た
突然 目覚めた俺は
「 えっ 」と声を漏らし後 自分の状況を再認識した
「 母さん!! 今何時 」
「 夕方の 六時過ぎ頃かな 」
答えて来たのは 父であった
視界が広がり 目のピントが合うと ベッドの傍に父の姿が在り 
その傍らに小枝子の姿を見とめた
「 一般の面会時間は 八時までだから それまで 小枝子さんと話して居なさい 」
父は 小枝子を気使う様に そそくさと席を外し 居なくなってしまう
「 秀一 ! オッハー 」
「 もう 夜だろー 」
秀一は 照れ隠しなのか ぶっきらぼうな返事を返した
「 あー 人格変わった 」
「 あなたへの想いを胸に 一生独身で居様と少し考えた私に対し
 なんと心無いお言葉 」
「 少しなのか ? 」
「 え え 少し 」
「 わっ. . . . 」 俺のツボを心得ている小枝子が 素早く俺の口に手を当てた
「 患者さん、ここは病院ですよ 大きな声を出してはいけません 」
その後 小枝子とは 取り留めの無い話を延々と交わすうちに
院内放送が [ 八時に成りました 一般の方の面会は終了となります・・・ ]
「 じゃ! また明日 」
小枝子は 素早く周りを見渡し 俺の頬にキスをすると 
手を振りながらドアの向こうに姿を消してゆくと
 待ち構えていた様に父が病室に入ってきた
「 で、 どうなんだ 結婚するのか? 」
「 な・何を突然にそんな話を、」「 まだ そんな事 考えて無いよ 」
「 すまん 唐突過ぎたな うん、うん 」
「 いや なに 今回の事で お前も早く自立した方が良いのかと
  チラッと思ったもんでな 」
「 お前の意識が戻るまでは 大変だったんだぞ 」
母さんは 父さんが冷静すぎると 掴み掛かるし
         パニック状態の母さんをどう扱っていいか 困り果てたもんだが 」
「 なんにしても お前の意識がもどって 父さんも本当にうれしいぞ 」
一つ年上の 君永 小枝子 とは 大学のボート部で知り合った
行動的で快活な性格の小枝子の存在は それ自体が キラキラと輝いて見えた
一部員とマネージャーといった関係であったが
憧憬にも似た想いで 付かず離れずのポジションを守っていた俺に
アプローチして来たのも 小枝子の方からであった
以来、小枝子との付き合いは 三年越しに成るが
 未だに小枝子の掌の上で走り回る 俺が居た
なにより 小枝子は嫌味の無い狡猾さで
 俺が不条理な事を言っても 俯瞰出来る余裕が有り
最後のイニシアチブは いつも小枝子が握っていた
そんな関係でも やはり 俺が結婚と言う二文字を切り出すのを
じっと待っていてくれているのだろうか
何も言い出さない俺は 今の環境にぬくぬくと浸り あぐらを掻いているのかもしれない
「 父さん、俺 真剣に考えてみるよ 小枝子との事 」
「 うん、そうか、父さんも小枝子さんは いい子だと思うよ! 」
「 それに、早く 孫の顔を見たいしな 」
「 だけど 子離れの出来ていない母さんには まだ 話さない方が良いぞ 」
「 OK・承知 」
周りの付き添いの方々に会釈しながら 足音を忍ばせてICUに入ってくる母の姿が見えた
「 秀ちゃん 今、ナース・ステーションで聞いてきたけど
 明日から一般病棟ですって 」
「 お父さん 家のダイニングに食事の用意が有りますから 後は 私が 」
「 秀一、それじぁな、父さんは帰るから お前も早く帰って来るんだぞ 」
「 秀ちゃん、 付き添えるのは今日までですって 明日から一人で大丈夫? 」
「 心配要らないって、俺 もう成人だぜ 」
「 何言ってるの 親にとって 子供はいくつになっても子供なの ! 」
翌朝は早くから ベッドごと一般病棟に移動し そこで朝食を取った
「 沢嶋さ~ん 検温で~す 食事は取られましたか? 」
「 はい、お腹ペコペコでまだ足りない位です 」
「 沢嶋さんは 食事制限出てませんから 間食を取られても構いませんよ 」
「 九時頃には 採血に伺いますから 必ずベッドに居てくださいね 」
出歩いても良いという看護師さんの説明を受けて 1階の売店まで行ってみようと思い
恐る恐るベッドから立ち上がった秀一ではあるが 思いの他 脚がガクガクする
それでも手すりに摑まり エレベーターの前に立つ頃には
 やっと本来の運動機能が回復していった
秀一が 売店から帰り 早速ベッドに腰を下ろし 売店で買ったパンの袋を開けた時
「 沢嶋さ~ん 採血で~す 」
秀一は 子供の様な顰め面を作って見せる
看護師さんは そんな事なぞ意にも返さず
「 あら お腹が減って機嫌が悪いようね
  すぐに終わりますから しばらくの辛抱ですよ 」
実は 顰め面の原因は採血に有った
健康だったが故に 予防注射以外に受けた事が無い為 注射と言う物がニガテなのだ
腕を捲り 顔を顰め 息を止めて その瞬間を待つ秀一に 注射針が刺さる直前
「 キャッ 」と声を上げた看護師さんが 注射器を床に落としてしまう  
「 どうしたんですか ? 」
「 え、ええ 静電気が走ったみたいなの 」
「 すみません 新しい注射器を持って来ますから しばらく待ってて下さいね 」
再度 採血を何事も無く済ませたが
この事が 異変の序章で有る事は 此の時点で 気づく筈も無かろう
退院の日は 朝から 生憎の雨である
担当医に挨拶を済ませ 玄関ホールを出た 秀一は 
少し離れた大通りを行き交う 車や アーケードの雑踏を眺めながら
何だか自分が 異邦人か浦島太郎にでも成った様な気分に 囚われていた 
10日間の入院生活で 世間から隔絶された時間軸のギャップに
ともすれば 世の中から置いてきぼりにされる 不安が頭を過ぎる
雨脚は そんな秀一の感傷を打ち砕くがごとく
 一層激しく 秀一の傘を打ち付けるのであった
「 秀一、早く乗りなさい 」
先に 父の車に乗り込んだ 母の声が 雨音の向こうから聞こえて来る
「 今行くから ! 」
退院して3週間 あまり変化の無い安穏な日々を過ごして来た 秀一であったが
今日は 1つのイベントを迎える事と成った そう 今日は 小枝子の誕生日である
昼休みに 携帯で連絡を取り
その日は 小枝子の勤めるスポーツ店の前で待ち合わせる 約束を取り付ける事が出来た
仕事を終えて出てきた小枝子は 白いブラウスに黒のパンツといった 相変わらずの軽装で
長い髪を後ろで纏めた 髪飾りが印象深かった
在り来たりではあるが 予約したレストランで 食事を取り 夜の街を二人で歩き
橋の袂で 小枝子の肩を引き寄せると
瞳を覗き込むように唇を交わした瞬間 小枝子がいきなり身を委ねて来た
いや 委ねるのではなく 倒れ掛かったのであった 
驚いた秀一は 小枝子を抱きかかえたまま
 携帯を取り出そうとしたが なかなか取り出せない
「 秀一 ・・・ 」
「 小枝子 気が付いたのか ・・・ 」
「 とりあえず 病院へ行こう !  」
「 いいえ 大丈夫 秀一のキスが上手かったのか 急に フゥア~と成ったの 」
小枝子の少し余裕の有る受け答えに 秀一は少し胸を撫で下ろし
「 送っていくから 今日はもう帰ろう 」
そう言うと 秀一は 小枝子の返事も聞かずに
運良く通りかかったタクシーを止めて 小枝子を誘う
二人がタクシーに乗り込むと 秀一が再び口を開いた
「 何か有ったら 連絡が取れるよう
 今日は 小枝子の実家の方に泊まって居てほしい 」
小枝子は 自分の実家近くのマンションに 居を構えていたが
小枝子ひとりでは 余りにも心配で 懇願する様に小枝子に申し出たのである
小枝子の実家には 彼女の母と三歳下になる妹が暮らしており 何度か御邪魔した事も有る
そんな 秀一の申し出を 彼女はすんなりと受け入れ 小さく頷く
気丈な風を装って居ても やはり 一抹の不安が拭いきれないのであろうと 秀一は思った
小枝子を実家に送り届けた帰りのタクシーの中で 秀一は ため息を1つ吐き
徐に ポケットに手を入れると 中に有った小箱を握り締める
小箱の中身は 昨日出来て来たばかりの エンゲージリングが入っていた
退院した翌日から 今日の日の為に 時間の許す限り 宝石店を幾つも足しげく回り
店の人に 無理を言って この日に間に合うよう創って貰った 
エンゲージ・リングなのだから その落胆は大きい
自宅に帰って来たものの 何も手に付かず
 夜遅くまで 目が冴えたまま 眠る事は出来ない
口の中がやけに乾いた秀一が 電灯の消えた台所で 水道のレバーに手を掛けようとした時
何かが 光った 更にもう一度 レバーに手を近づけると
秀一の指先から 蒼白い光が迸る
「 原因は 俺か !  」
この謎めいた現象に 自分で答えを出せるはずも無く
誰かに相談するしか無いという 結論に達せざるおえないが
しかし 誰に・・・
秀一は 色々と考えを巡らせ 一人の人物に突き当たった
 [ 多田倉 亘 ] タダクラ セン 奴が良い
口が堅いと言うより 口が悪いから公言する様な仲間が少ないし 何より頭が良い
早速 明日にでも 会いに行ってみよう
多田倉 亘 とは 会社のインターシップで知り合ったのだが
彼は 俺たち就活組とは違って 会社直々に 引き抜いてきた研究員であり
異質な存在として 人を寄せ付けない雰囲気も纏って居たが
新入社員の中で 秀一ただひとりが 亘に声を掛け なぜか 馬が合った
 
翌日 会社には休暇届を出し 多田倉 亘 の勤務する 電力研究所に赴くと
亘は いつの間にか自分の研究室を持つ程の待遇まで 出世していることに驚かされた 
久しぶりに顔を合わせた俺に向かって
「 おー ! 秀一 ! 生きてたか 」
「 何だ 見舞いに行かなかった文句でも言いに来たのか 」
「 チゲーヨー お前のキャラは承知してるつもりだ 」
「 それより 見てもらいたい事があって 此処まで来たんだ 」
秀一は 研究室の中央に有る水道に目を付けると
 宣を誘い 昨晩と同じ様に 蛇口に手を近づけた
同じ事が再現できるかは不安で有ったが その指先からは 昨晩同様 蒼白い光が迸った
「 ほ~、 で、 どういう仕掛けなんだ 」
「 それが解かる位なら 会社を休んで ここまでこねーよ 」
「 ふ~ん じゃあ チト理科の実験でも いたしやしょーか 」
「 先ずは この豆電の線を片方づつ両手で持ってみろ 」
「 ん! 電球が切れちまった 」
「 じゃあ テスターで測ってみるか 」
「 こりゃ 驚いた 210AVh もあるぜ 」
「 どういうこった ちゃんと教えろ 」
「 要するに 自動車のバッテリー並みの電力放出が起こってるて事だ 」
「 何故 そんな事に成るんだよ 」
「 俺にも解からんが お前は電気ウナギの類に仲間入りしたんだと思うぜ 」
「 亘 俺はどうすりゃいいんだ 何とか元に戻す方法は無いのか 」
「 元には戻せんが その放電だけは抑えられると思うぜ 」
「 ちょっと 考えが有るから そこで待ってろ 」
亘は そう言い放つと 研究室のドアを開けて 出て行ってしまった
「 電気ウナギかー ・・・ 」
小一時間もすると 亘が 小さなザブトンの様な物とガムテープを抱えて戻ってきた
「 秀一 ズボンを下ろせ 」
「 なんでだよ 」
「 ぐだぐだ言ってね~で さっさとズボンを下ろせ 」
秀一がズボンを下ろすと
亘が 先程の小さなザブトンの様な物を 股間に挟み
それをガムテープでぐるぐる巻きにして止めた
「 げっ!! 」
「 どう見ても この格好は オムツ姿のアブナイお兄さんだろ ? 」
「 文句を言うな 在り合わせの材料で賄しか無いんだからな 」
「 来週までには もう少し見栄えの良いものを作ってやるから それまで我慢しろ 」
「 仕方ないとは思うが 辛れ~な~ 」
「 ほれ、秀一 もう一度 さっきの放電やって見せろや 」
言われるままに 先程と同じ様に 蛇口に手を翳してみたが 放電は起こらなかった
「 ほらな, 俺のやる事に間違いは無いだろ 」
「 お前に巻いた 充電パックが お前の電気を溜め込むって塩梅だ 」
「 俺の考えでは 一日最低でも 半日はそのパックを付けて置いてくれよ 」
「 ありがとう 感謝する 」
「 だが、今一度 元に戻れる方法を考えては貰えないか 」
「 ああ、何とかしてやりてーが 俺にとっては専門外だからな 」
「 クローン研究を遣っている奴に それと無く聞いてみるしかねーな 」
「 お前も世間で 電気人間なんて騒がれでもしたら たまんねーだろ 」
「 まぁ、インパクトとしては小さいから 手品と言われれば其れまでだがな ! 」
毎晩 充電パックを穿いて就寝する日課を続けて 三日が経っていた
小枝子とは あの日以来 電話連絡のみの生活が続く日々
なにせ 俺の安全性は 未だ保障できない状態なのだから
その夜 又も あの放電現象が始まった
慌てた秀一は すぐさま 宣の携帯に連絡を取り 指示を仰ぐ
「 わかった ! 研究室で会おう 」
秀一は バイクのエンジンを掛けると 一目散に 亘の居る研究所へと向かうのであった
「 おぅ、来たか! 」「 早速 両手を出してみろ 」
前回の様に 亘はテスターを取り出し 秀一の手に端子を付けたが
「 まいったな~ 前と同じレンジで測ったら ヒューズが切れちまった 」
「 仕方ない 隣の部屋に在る 発電機のアンメーターでも使うか 」
「 秀一 こっちに来て そこの配線を握って見てくれ 」
「 違う ! 片方づつだ ! 」
「 おりぉ ! こりゃーすげー お前レベルが上がってんぞー 」
「 此処に在る 発電機並みの電力だぜ 」
「 俺は これからいったい 如何なるんだ !! 」
「 まあ落ち着け、電気ウナギから 差し詰め名前を付けるなら
 吸収電力沢嶋発電所 といった風に変わっただけだ 」
「 なんで そう なる! 」
「 お前 今 変電所勤務だったよな、」
「 ああ まだ仮配属だが 変電所に通ってるぜ 」
「 当初は お前が発電してるものと思っていたんだが 」 
「 俺の考えだが 変電所から漏れた電気をお前が溜め込んでいるんじゃないかと思う 」
「 フフフゥン お前自身の容量は未だ判らんが いいんじゃないか 」
「 何が いいんだよ 」
「 お前の面倒は今後すべて任せとけ そのかわり 俺と契約しろ 」
「 どお言う こった 」
「 いやなに 今後の費用はすべて俺が引き受ける代わりに
 お前の電気を頂くって事だ 」
「 お前の電気を売って 研究費用に当てるつもりだ
               下手すりゃ お前の電気で工場1つ位は動かせるぜ 」
「 おい、その話は 俺がこのまま元に戻らない想定で進めてるじゃねえか 」
「 ハハハハ わりぃ つい自分の野望に目が眩んじまった 」 
「 ちゃんと考えてはいるんだぜ 前に言ってたクローン研究を遣っている奴に
             お前の人ゲノムを 調べてもらう算段はしてあるからな 」
「 それと ちょうど新しい充電パックも出来てるぜ 使ってみるか? 」
亘は 隅に置いてあった 紙袋から 真っ赤なパンツを取り出すと それを秀一に渡した
「 赤い ・・・  何故・赤い 」
「 たぶん スーパーマンの刷り込みだろうよ、
そのへんの思考は 俺もパンピーなんだろう 」
「 小さなことは気にせず 穿いてみろ 」
「 あっ 違う、違う 今回のは素肌着装なんだ 」
「 此処でか ! 」
「 文句の多い奴だな ハム太郎風情が 何言ってやがる 」
「 さっさとパンツを穿いて 口を開けてみな 」
そう言うと 亘は 綿棒で秀一の口の粘膜を絡め取って
 冷蔵庫の中のシャーレにそれを収めた
「 こいつを さっき言ってたDNA鑑定で 解析して貰うつもりだから安心しろ 」
「 今の所はとりあえず おまえの野望に加担してやるよ
                     しかし 元に戻る意志は捨ててないぜ 」
「 それと もうひとつ この赤いパンツは止めてくれ 」
「 そうだな 黒のボクサー・トランクスを作ってもらえれば ありがたい 」
「 ほんと 文句の多い奴だな~ 」
「 当たり前だ 俺には彼女が居るんだから オムツとか赤いパンツは勘弁してくれよ 」 

その日 秀一は 宣の研究室に居た
亘の解析によれば 先ず 秀一の充電容量は町ひとつ分賄えるだけの大きさが有る事
そして 自然界の在りとあらゆる電気を吸収するが
 容量を超えての吸収は起こらない事等である
だが ここ数日で 秀一は 亘の予測を上回るスピードで 其の能力を特化させていた
「 来るぜ ! 」
「 何が ! 」
「 まあ、ちょっと待ってな ! 」
暫くすると 研究室の電灯やらビィーカーが揺れ始めた
「 地震か ! 」
「 ああ、震度3ぐらいだろうな 」
「 判るのか 」
「 すげーだろ 最近 地震の前には必ず 地面に付いてる体の部分がムズムズするんだ 」
「 お前今度は ナマズに進化したのか ? 」
「 そうかもな 」
「 それはそうと 新しい充電パック出来てんだろ 早く渡せよ ! 」
「 そう隻句なって 今度のはすげーんだからな
 なんと今までの23倍の充電容量なんだぜ 」
「 しかも 軽くて丈夫な上に お前の注文どうり 黒のボクサー・トランクスだぜ 」
「 お ! 良いな~ 」
「 今日は此の後 小枝子とドライブの約束だから 間に合って ほんと よかったぜ 」
秀一は ある決心をしていた
今日 小枝子と逢って 渡しそびれていたエンゲージリングを渡し
虫のいい話ではあるが 結婚は一年後まで待って貰おうと
もし 一年経っても自分の体が元に戻らなければ
全てを 小枝子に話し 其の上で小枝子の意思を尊重しようと
 
秀一と小枝子を乗せた車は 軽快に海沿いを走っていた 二週間ぶりのデートであった
「 あら、何かしら 向こうの方でアベックが手を振ってるわ 」
なるほど 前方の路肩に車を止めたアベックが 手を振っているのが見えた
秀一は 手を振るアベックの やや手前の路肩に車を止め
「 如何したんですかー 」
アベックの彼氏らしき男性が こちらに 近寄ってきてはウィンドー越しに話しかけてきた
「 どうやら バッテリー上がりの様なんです 」
「 ケーブルをお持ちなら助かるんですが もし お持ちで無ければ
           近くのガソリン・スタンドまで乗せていってもらえませんか? 」
「 すいません 生憎とケーブルは積んでいないんです 」
「 でも 本当にバッテリーが原因なのか ボンネットの中を少し拝見できますか 」
「 あ、お車に詳しい様でしたら ぜひともお願いします 」
秀一は如何にも点検する様を演じながら バッテリー端子とボディを手で掴むと
「 すいませ~ん エンジンを駆けて見て下さーい 」
ギュルーン 始動いっぱつ エンジンは元気良く回りだした
「 ありがとうございました 」
「 いえいえ 只の接触不良だったみたいですよ 」などと 恍けて見せた
つい二週間前頃は 電気に体を支配され 迷い、戸惑い、途方に暮れていたが
今では ある程度ではあるが 体内電気をコントロール出来るまでに成っていた
「 秀一 ! すごーい 貴方にこんな才能が有るなんて ぜんぜん知らなかったわ 」
「 俺も 日々成長してる訳なんよ 」
「 ありがとうございました お先に失礼いたします 」
「 あ、ご丁寧にどうも 道中お気をつけて 」などと
 時代がかった言い回しも口から零れた
やがて 遊歩道の在る海岸沿いの駐車場に 車を止め
二人は 車を降りると 波打ち際の遊歩道を 無言のまま静かに散策する
秀一の決心が 二人の間に張り詰めた空気を作り出していた
少し窪んだ岩陰に入った時 突然 秀一がエンゲージリングを小枝子の目前に差し出すと
「 これを 受け取ってほしい 」
「 そして 出来うるなら一年間
 僕が君を支えられる自信が付くまで待って居てほしい 」
「 はい 」
「 本当にそれで良いのか ! こんな身勝手な話は無いだろうに 」
「 少し冗談交じりだったけど 私の気持ちは病院で話した通り 貴方だけよ 」
「 ありが・・・ 」
ん ! 脚がムズムズする
不意を付くように 秀一は小枝子を抱きかかえると 海岸の開けた丘の上まで走り出した
小枝子は そんな秀一の行動に
目を丸くしながらも 秀一の首に手を回し しっかりと抱きつき 満面の笑顔を見せていた
暫くすると やや大きな地震と共に
 後方で 先程二人が居た遊歩道が崩れ落ちるのが見える
「 ふー 危なかった 」「 此のところ 地震が多いな~ 」
小枝子が 俺の行動に疑念を抱いたのではと思い 秀一は咄嗟に話をすり替える
「 俺は未だ 未熟で頼りない社会人だけれど 」
「 小枝子のこと 一番大切に想っているから
            小枝子を一生支えられる様な男に成りたいと思っている 」
「 一年後に 小枝子と結婚出来る事を励みにして 俺 ! 頑張るから 」








      ↑ブログトップへ




2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top


                ( 雪原 )

「 広瀬主任、広瀬主任 」
「 起きてください 広瀬主任 」
秀一が 主任の頬を叩こうと 手を翳した瞬間
「 起きたから、 叩くなよ、 」
「 は~ 」秀一は 大きなため息を1つ漏らした
「 ところで 此処は何処だ 」
「 僕が ビバークしようと 穴を掘った雪の中です 」
「 沢嶋、おまえ登山の経験でも有るのか? 」
「 いいえ こんな事は初めてで 全部、映画の受け売りです 」
「 そうだ パイロットの木村君が見当たらないが 彼はどうした 」
「 残念ながら 操縦桿で胸を強打したらしく・・・ 」
秀一は うな垂れながら 首を左右に振った
「 そうか・・・ 」
「 なんにしろ 君と私が助かっただけでも 良しとするべきか 」
まだ 研修期間中の秀一は 今回 電力施設保全部に配属され
今此処に居る 広瀬主任と共にヘリに乗って 高圧線の点検視察に同行したのだが
途中 吹雪に遭い ヘリが高圧線に触れ墜落するという 惨事に見舞われたのであった
「 ん、なにか暖かいな、」
「 あっ、それはですね 寒がりの僕の為に母が荷物に入れた 小型の電気毛布です 」
「 沢嶋くん 君は良いのか 」「 君は寒がりなんだろ 」
「 僕は・・・ホットパンツを穿いていますから 大丈夫です 」
「 ホットパンツ? ショートパンツの事かね? 」
「 いえ 亘が いや多田倉という奴が僕の為に作ってくれた 電熱パンツなんです 」
「 多田倉という奴は 電力開発研究所に居て 其の中でも相当優秀な奴なんですよ 」
「 ああ 私も噂位は聞いた事が有るよ 」
「 奴が作ったこのパンツの充電パックから
           広瀬主任が使っておられる電気毛布の電力も賄っているんですよ 」
「 ほ~ なかなかのもんだね 」
「 しかし その充電パックも何時まで持つかは判らない 」
秀一は心の中で呟いた( 一年以上は持ちますよ 広瀬主任 )
「 ヘリに積んである 私の荷物の中に シュラフが入っているんだがなぁー 」
「 広瀬主任、僕が取ってきます 」そういうと秀一は 雪の壁に穴を開けた
途端 冷たい風と共に雪が活きよい良く 吹き込んで来た
「 沢嶋 出るな! 」
「 吹雪の中 外に出れば数メートル先の位置さえ判らなくなってしまうぞ 」
「 そうなれば 君は二度と此の場所に帰る事が出来なくなるやもしれん 」
「 ここは耐えて 吹雪が収まるのを待つのが 得策だろう 」
「 ほら これを食べなさい 」
広瀬主任は 徐にポケットから板チョコを取り出すと それを半分に割って秀一に差し出した
「 今度からは 冬山に行くなら 電気毛布よりこっちにしておくべきだぞ 」
秀一は 差し出された板チョコを少しかじってみると
なるほど 口に広がるこの甘さは 生気を保つのに十分な効果であると 納得させられる
「 ところで君は 独身だったね 」
「 はあ 」
「 恋人は居るのかね 」
「 まあ 約一名ほどは 」
「 こんな時に つまらん事を聞いてくると思うだろうが
           こう言う取り留めの無い会話が 意識を持続させるコツなんだよ 」
「 私には 小学五年生になる 娘が居てね 」
「 女の子はいいよ 私が帰宅すれば 連れ合いより先に出迎えてくれたり 」
「 一緒に散歩出来るのも 女の子ならではの事だからね 」
「 沢嶋君も 早く身を固めて 子供を作りなさい 」
「 僕も 結婚の意志は有るのですが まだまだ半人前で、」
ほんとうに 取りとめも無く話す内に どれほどの時間が経ったであろうかと思える頃
睡魔が二人の元に静かに忍び寄ってくる
遠くで 犬の吼える声がかすかに聞こえた 空耳かもしれないと 頭を振った其の時
いきなり頭上の雪が崩れ落ち 二人は太陽の光に満たされた
「 だいじょうぶですか? 」
二人が雪穴から助け出された頃には さすがに 体の末端は凍傷に蝕まれていた
タンカに乗せられ 雪原を進むソリの上で横たわる主任に 救助隊の一人が話しかけた
「 ヘリのパイロットは残念な事でしたが
            あなた方二人だけでも助かって本当に良かった 」
「 もし ヘリの燃料にでも引火していれば 全員 助かる事は無かったでしょう 」
秀一は 其の事については 思い当たる事がある
( 俺が 高圧線の電気を 真っ先に帯電蓄積したに違いない )
助かったものの しかし 疲れた・・・



 
 



      ↑ブログトップへ



2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top


               ( 砂漠にて )

焼けるような タラップの手摺りを避けて 降り立った地は砂漠の国であった
数時間のフライトを経て 此処まで来た理由は 俺の勤める電力会社の海外事業部の要請で
ODAのインフラ整備に関する大臣視察に 随行員として同行する為である
民間企業の悲哀というか 翌日の業務内容といえば
              大臣夫人の買い物に付き合う羽目と成った
ベールで顔を包んだ女性、ターバンを巻いた褐色の肌の男性、
アラブ系の人々が行き交う市場を 我が大臣夫人は臆面も無く堂々と闊歩する
俺は現地通訳と共に 夫人のやや後方で 人々の間を縫うように付き添う始末であった
夫人は ある商店の店先で足を止めると あれとこれとあれを おみやげに買って帰ると仰る
俺は 店のおやじと通訳を通して 値段をとことん値切り 代金を支払う
否 支払わせていただく
費用は会社が負担するのだが 政府調達で発電所誘致ともなれば 巨大な利権が動く
会社にすれば それに食い込む為の 微々たる先行投資なのだ
要約 商談がまとまり 店の外に出ると 夫人が路地を曲がるのが見えた
やばい !
表通りの治安は そこそこ維持されてはいるが
             一歩、裏通りに入れば 身の安全は保障できない
急いで夫人の後を追ったが 追いついた頃には
夫人の前を 小柄な男が大きな声を挙げながら 詰め寄っていた
俺は 通訳に目配せすると その男の前に立ち塞がり 
身振り手振りで相手の注意を引き
         夫人が離れた頃を見計らって 逃げ出す算段をしていたのだが
生憎と相手が悪かった 振り返ると もう一人 男が立っており
更に振り返ると 男達が三人に増えていた
仲間と思われる一人の男が 俺に銃を突きつけた
咄嗟の反応は 日常の刷り込みから行われる
此の時もやはり 意味が通じるかどうかなど考えずに 思わず 両手を挙げた
男達は 口々に何か言い合っている様だが 俺には理解できない
此処暫くは 大人しく様子を見ようと 胎を決めた時
いきなり後方から 目隠しをされ 更に後手に縛られ 歩けとばかりに尻を蹴られる
色々な思考を巡らせながら暫く歩くと 今度は車に乗せられて何処かへ向かうようだった
数時間かけて降り立った場所は
       砂漠であろう事は 頬に当る砂混じりの熱風から推察出来る
やがて 頬に当る風は也を潜め 足元は確りとした石畳を感じ取る
また暫く歩き 建物に入ったであろうと思われた時
いきなり石の床に転がされたかと思うと 目隠しとロープを解かれた
訳の判らない群集のざわめきに囲まれ 目の採光が戻りつつある中
言葉が通じるはずも無いのだが 秀一は思わず声を漏らす
「 此処は 何処ですか 」
「 此処は 我々の部族が集うモスクである 」
思いがけず 懐かしい日本語が返って来た
「 あなたは いったい どういう方ですか? 」
「 我は 今此処に集う 部族の長である 」
「 何故 私はこの様な所に? 」  
「 我々の神は 街中で顔を晒して歩くような如何わしい女は 処罰せよと説いておる 」
「 お前は その様な女を庇い立てし しかも其の女を逃がしたと
                        我が同胞は申しておるのだが 」
「 どの様な経緯であったか お前の弁明を聞こう 」
「 かの女性は 私にとって目上の方の夫人でありますが 」
「 此の地のしきたりを 私がしっかりと口上していれば
                   この様な不躾な行動は取らなかったと思います 」
「 罪が有るとすれば 私に有ると存じます 」 
「 どうか夫人の不作法は お許し願えませんでしょうか 」
秀一は族長の前に正座すると 深々と頭を垂れた
「 暫く待て 」・・・
族長は数人の者を近くに呼び寄せ 協議する様子が見てとれた
「 お前を含め お前たちへの断罪は 我に 一任することと成った 」
「 我も 君の国で武士道を学び その礼節を理解しておる 」
「 お前のとった礼の重さも承知している 礼には礼を返そう 」
「 お前の真摯な態度に応えて 今回は不問に伏し 許す事としよう 」
「 寛容なる判断をいただき 感謝の念に耐えません 」
そう言いながら ゆっくりと立ち上がる 秀一に向い 族長が声を掛けた
「 もし このまま貴様を幽閉する事と成ったら どうした 」
「 礼は十分に尽くしたと思つております 」
「 あなた方の意思が 唯一無二の存在では無いという事だけは ご承知置きください 」
其の時 秀一の全身からは 蒼白く眩い光が迸った
今迄 周りを囲んでいた部族の者達も 一瞬たじろぎ後ずさりをする
だが 部族衆の中の一人が 秀一の眼前に銃を構えた
其の刹那 !
秀一が右手を銃に翳すと いかづちの様な閃光が走り
男は銃を払い落とし 腰を抜かしてしまった
「 族長 私をどうかホテルまで送っては頂けませんか? 」
「 慣れぬ異国の地で 此処から帰るにも 帰路が判らないのです 」
「 わ、わかった 」
「 たが ひとつ聞かせてくれ おまえは 神の慈しみを受けておるのか? 」
「 それは 私にも判りません 」
「 今言える事は 私の意志もまた 唯一無二の存在では無いと 」








      ↑ブログトップへ



2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top


                ( 全電感 )

ドン! という大きな音と共に辺りが閃光に包まれた
秀一には 一瞬なにが起こっているのか全く判らない
「 おい、大丈夫か 」亘の言葉で 我に返った秀一は 改めて自分の状況を確認した
俺の持っていた 傘の柄から上の部分はいつの間にか無くなっていた
周りにいた群衆は 好奇の視線を送りながらも やや離れた場所から俺を取り囲んでいる
それも其のはずである 此処は高層ビルの立ち並ぶ都会のど真ん中であり
この様な場所で 落雷なぞ起こり得る筈も無い出来事であった
不意に亘が大きな声で
「 すいませ~ん 今日のパホーマンスは失敗してしまいました 失礼しまーす 」
言い終わるやいなや 俺に傘を差し掛けると 先程まで居たビルの中に俺を引っ張って行く
この機転の速さに驚かされるが 次の物言いがまた こいつらしいと言えばこいつらしい
「 おい、今の雷 コピー出来たか ! 」
こ、こいつー
俺は 亘の肩に手を当てると「 何なら試してみるか ! 」
「 あっ わかった わかったから 」「 俺にデリカシーなんて物を求めるなよ 」
ここまで 先読みされては次の言葉が出て来ない
俺と亘はこのところ 毎日のように このビルに入り浸っていた
此処は俺たちが勤める電力会社の本社ビルで 其の中の情報管理室に出入りしている
一般社員はこのセクションに入ることは出来ないのだが
亘の奴はいつの間にか ここのIDまで持って居やがった
此処に来る目的はと言えば
俺が最近になって自分の放電現象をコントロール出来だした事を知った
亘がこんな事を言い出した
「 秀一、音感は 解るよなー 」「 じゃあ 全音感てえのはどう言う事か解るか? 」
「 ドの音をドの音階として認識出来るのが音感であり
           聴いた音を認識して声や楽器で再現できる能力が全音感てぇこった 」
亘は これを電気に置き換えて 俺に訓練すればできると言うのである
新しい玩具を見つけたかのごとく 亘はひとり はしゃいで居るが
俺としては そんなに気乗りはしない さりとて 放電の暴走が起こらないという保障が無い為
渋々 此の実験に付き合わざる終えなかったのが 実情である
第一ステップは
乾電池から始まり 家庭用100V、工業用200Vと順調にクリア出来たのだが
第二ステップでは
通信データ等のデジタル微弱信号を読み取れという 難問に突き当たった
当初は単一信号を何度も反復し それをパソコンに送る作業から始めたのだが 如何せん
上手く出来なければ パソコンがショートして何台ものパソコンをオシャカにした
要約 廃棄パソコンの山が積み上がらない様に成ると
次は 第三ステップとして
ここ電力会社の本社ビルの情報管理室で 大量データの蓄積実験を開始したところである
感覚的には データ信号を音に近いものとして感じられるが
                     意味としての解析はまだ出来ない
要するに 色々な外国人に周りで話しかけられても 理解できる物ではないと言う事だ
亘にもそこの事情は 理解出来るようで
今の所は記憶媒体に徹して 脳のシナプスを育てることに専念して居れば良いと言う
ああ、俺は何処へ向かうのか 徐々に 自分の思いとは別に 人間離れしているようにも思える







      ↑ブログトップへ




2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top


                ( 内調 )

「 おう、秀一呼び出して 悪かったなッ 」
「 お前が下手から そんな物言いする時は ろくな話じゃねぇだろ 」
「 よく判ってんじゃねぇか 」
「 実はな、お前にも出資して貰った 俺達の会社の事なんだ 」
亘の言う 会社とは 俺が溜め込んだ電気を ひとまず巨大な蓄電池に移し
それを動力源に新しい汎用充電パックを生産する工場の事で
                 そこでの利益を基にして研究開発費を捻出し
あわよくば 濡れ手で粟を狙った 危うい会社である事は間違いない
何故、危ういと言うかといえば 運営母体を俺の能力、俺の存在に大きく依存する点にある
さりとて 俺にとっては 現時点で考えられる 元の体に戻る為の 唯一の方策であり
亘にとっては 制約を受けずに 研究に没頭できるチャンスであった
こうして 二人の利害の一致を実現する為に エレ・パックという会社を立ち上げたのだ
「 でな、会社の設立資金の大半を
         俺( 亘 )の遠縁の叔父に 資金援助をして貰ったのは知ってるよな 」
「 その叔父から昨日、電話が有ったんだが
         仕手戦で穴を開けちまって 未公開株を誰かに譲ったって言うんだ 」
「 そこで相談なんだが 株の譲渡先の出かたにも拠るが
        経営権を譲り渡すか放棄して バックレ様かと 考えているんだがな 」
「 お前の、
( 社内アナウンス ) 多田倉さん、・多田倉さん、受付にご面会の方がいらっしゃってます
「 ちょっと 行ってくるから お前の考えを まとめといてくれ 」 バタン、
亘が 受付に出向くと 受付横に スーツ姿の男性が二人立って居た
軽く会釈を交わすと「 はじめまして 多田倉 亘さんでしょうか? 」
「 わたくしは 槇村で 後ろの連れは 三木と申します 」と名刺を差し出す
「 あっ、ご丁寧にどうも 多田倉です 」
宣は名刺を眺めながら「 内閣調査室次官が 私に 何か? 」
「 突然にお邪魔して 申し訳ございません 」
「 実は、今日お伺いしたのは エレ・パックの件について 話合いをと思いまして 」
「 少々、お時間を頂けますでしょうか? 」 
「 はぁ? 宜しければ 僕の研究室で お話を伺いたいと思いますが 如何ですか 」
「 はい、そちらでけっこうです」
宣は腕を指し示し「 では、どうぞこちらヘ 」
「 エレ・パックの件については
      丁度、共同出資者の沢嶋も研究室に来てますから 一緒にという事で 」
「 承知しております 」・・・?
コン、コン、「 秀一、入るぞ、」
宣は二人を研究室に招き入れると「 秀一、こちらは 内閣調査室の槇村さんと三木さんだ 」
「 はじめまして 槇村です 」「 三木と申します 」
槇村が口火を切った
「 唐突では有りますが 先ずは お二人の立ち上げたエレ・パックの株式を
                   わたくしどもが 取得した事をお伝え致します 」
秀一が「 何故? 内閣調査室が? 」
 槇村は尚も話を続ける
「 私共、内閣調査室は 世間では 情報誌のスクラップをして 給料を貰う
                        昼行灯などと言う噂もございますが 」
「 実態は、密かに国益を睨んだ活動をしっかりと展開しております 」
「 ついては 今回、エレ・パックの株式を取得するにあたり
             株式自体の価値は無きに等しい事も 承知しておりますが 」
「 国家予算を投じてでも 御社を外敵から守るのは 国益に適うと自負しております 」
「 さりとて 投資に対する効果を最大限引き出すには
             多田倉さんの頭脳と 沢嶋さんの特殊能力を必要とします 」
「 俺の頭脳って言うのは判るが 沢嶋の特殊能力ってなんなんだよ 」
「 惚けられるのは 当然とは思いますが、当方の調査も侮って貰っては困ります 」
「 三木君、報告書を、」「 はっ、」
三木はブリーフ・ケースから書類を取り出し 二人に一部づつ手渡した
「 ご覧に成るとお分かりのように
       最近 お二人が頻繁に利用している
              本社の情報室での お二人の会話を印刷したものです 」
「 納得して 頂けましたか、」
「 ですから 是非とも お二人のご協力を仰ぎたく 伺った次第です 」
「 さて 今後についての 当方の提示する条件としては 」
「 株式会社エレ・パックは 対外的には
        現在、お二人がお勤めの電力会社の子会社として運営して行きます 」
「 又、エレ・パック経営自体には 当方は 一切関与致しませんし
           お二人には役員待遇の報酬と経営決定権を保障致します 」
「 表立った お二人の身分については 現在のままで 勤務して頂き
     多田倉さんについては エレ・パックへの出向と言う形を取らせて頂きます 」
「 尚、必要に応じて 当方の要請を社内辞令を通して
              お願いするかと思われます事を ご承知置き下さい 」
「 このお話を お断りする事は出来ますか? 」
「 ご自由ですが、当方としても
       国家権力を振り翳す様な
          野暮は好みませんから 是非とも快諾して頂きたいですね 」
「 はっ! 最早、脚本有きという事ですか、」
「 そういう事で ご理解を賜りたいと存じます 」
「 すいませんが 二人だけで 別室で話したいのですが よろしいですか? 」
「 はい、こちらでよい返事を頂けることをお待ちしていますから どうぞ 別室の方へ 」 
バタン、
宣は 秀一を連れて屋上に出た
「 こんな所に来てどうするんだ 」
「 いや、室内だと 盗聴されてっかもしんねーしな 」「 さっきの書類か! 」
「 槇村って言うおっさん 第一印象は良かったんだが
                 なんとも嫌らしい物言いをしやがるぜ 」
「 で、亘、どうする! 」
「 あいつら、俺の能力を便利に使いたいだけだから
                元に戻る研究なんて物は 望まないと思うんだが 」
「 そのへんは 俺に任せろ あいつらから開放される手段として
                  必ず 元に戻る方法は見つけ出してやるから 」
「 だから 今後一切 この話は口にするなよ! 」
「 わかった 」
「 それに あいつらがお前の能力について
        どの程度把握しているのか判ってねーから 暫くは様子見って所だな 」
「 もし お前が元の体に戻っても 抹殺する様な必然性はねーしな 」
「 しかし、この所の人生展開は SF映画を見てるみたいだぜ 」
「 まっ、なんにしろ 今の所 国家権力さまに 楯突くのは不味いだろーからな 」
「 此処は 大人しく バンザイしとこうぜ 」
「 亘、お前、思慮深く成ったんじゃね 」「 いや、少しばかり賢く成っただけだ 」
バタン、
「 お待たせしました、話し合いの結果
            すべて あなた方にお任せする結論に達しました 」
「 そうですか!それはよかった 私も肩の荷が降りましたよ 」
「 今後の 細かい連絡は 此処に居る 三木が担当しますので よろしくお願いしますよ 」
「 では、私共は このへんで失礼します 」
・・・








      ↑ブログトップへ




2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top