( 砂漠にて )

焼けるような タラップの手摺りを避けて 降り立った地は砂漠の国であった
数時間のフライトを経て 此処まで来た理由は 俺の勤める電力会社の海外事業部の要請で
ODAのインフラ整備に関する大臣視察に 随行員として同行する為である
民間企業の悲哀というか 翌日の業務内容といえば
              大臣夫人の買い物に付き合う羽目と成った
ベールで顔を包んだ女性、ターバンを巻いた褐色の肌の男性、
アラブ系の人々が行き交う市場を 我が大臣夫人は臆面も無く堂々と闊歩する
俺は現地通訳と共に 夫人のやや後方で 人々の間を縫うように付き添う始末であった
夫人は ある商店の店先で足を止めると あれとこれとあれを おみやげに買って帰ると仰る
俺は 店のおやじと通訳を通して 値段をとことん値切り 代金を支払う
否 支払わせていただく
費用は会社が負担するのだが 政府調達で発電所誘致ともなれば 巨大な利権が動く
会社にすれば それに食い込む為の 微々たる先行投資なのだ
要約 商談がまとまり 店の外に出ると 夫人が路地を曲がるのが見えた
やばい !
表通りの治安は そこそこ維持されてはいるが
             一歩、裏通りに入れば 身の安全は保障できない
急いで夫人の後を追ったが 追いついた頃には
夫人の前を 小柄な男が大きな声を挙げながら 詰め寄っていた
俺は 通訳に目配せすると その男の前に立ち塞がり 
身振り手振りで相手の注意を引き
         夫人が離れた頃を見計らって 逃げ出す算段をしていたのだが
生憎と相手が悪かった 振り返ると もう一人 男が立っており
更に振り返ると 男達が三人に増えていた
仲間と思われる一人の男が 俺に銃を突きつけた
咄嗟の反応は 日常の刷り込みから行われる
此の時もやはり 意味が通じるかどうかなど考えずに 思わず 両手を挙げた
男達は 口々に何か言い合っている様だが 俺には理解できない
此処暫くは 大人しく様子を見ようと 胎を決めた時
いきなり後方から 目隠しをされ 更に後手に縛られ 歩けとばかりに尻を蹴られる
色々な思考を巡らせながら暫く歩くと 今度は車に乗せられて何処かへ向かうようだった
数時間かけて降り立った場所は
       砂漠であろう事は 頬に当る砂混じりの熱風から推察出来る
やがて 頬に当る風は也を潜め 足元は確りとした石畳を感じ取る
また暫く歩き 建物に入ったであろうと思われた時
いきなり石の床に転がされたかと思うと 目隠しとロープを解かれた
訳の判らない群集のざわめきに囲まれ 目の採光が戻りつつある中
言葉が通じるはずも無いのだが 秀一は思わず声を漏らす
「 此処は 何処ですか 」
「 此処は 我々の部族が集うモスクである 」
思いがけず 懐かしい日本語が返って来た
「 あなたは いったい どういう方ですか? 」
「 我は 今此処に集う 部族の長である 」
「 何故 私はこの様な所に? 」  
「 我々の神は 街中で顔を晒して歩くような如何わしい女は 処罰せよと説いておる 」
「 お前は その様な女を庇い立てし しかも其の女を逃がしたと
                        我が同胞は申しておるのだが 」
「 どの様な経緯であったか お前の弁明を聞こう 」
「 かの女性は 私にとって目上の方の夫人でありますが 」
「 此の地のしきたりを 私がしっかりと口上していれば
                   この様な不躾な行動は取らなかったと思います 」
「 罪が有るとすれば 私に有ると存じます 」 
「 どうか夫人の不作法は お許し願えませんでしょうか 」
秀一は族長の前に正座すると 深々と頭を垂れた
「 暫く待て 」・・・
族長は数人の者を近くに呼び寄せ 協議する様子が見てとれた
「 お前を含め お前たちへの断罪は 我に 一任することと成った 」
「 我も 君の国で武士道を学び その礼節を理解しておる 」
「 お前のとった礼の重さも承知している 礼には礼を返そう 」
「 お前の真摯な態度に応えて 今回は不問に伏し 許す事としよう 」
「 寛容なる判断をいただき 感謝の念に耐えません 」
そう言いながら ゆっくりと立ち上がる 秀一に向い 族長が声を掛けた
「 もし このまま貴様を幽閉する事と成ったら どうした 」
「 礼は十分に尽くしたと思つております 」
「 あなた方の意思が 唯一無二の存在では無いという事だけは ご承知置きください 」
其の時 秀一の全身からは 蒼白く眩い光が迸った
今迄 周りを囲んでいた部族の者達も 一瞬たじろぎ後ずさりをする
だが 部族衆の中の一人が 秀一の眼前に銃を構えた
其の刹那 !
秀一が右手を銃に翳すと いかづちの様な閃光が走り
男は銃を払い落とし 腰を抜かしてしまった
「 族長 私をどうかホテルまで送っては頂けませんか? 」
「 慣れぬ異国の地で 此処から帰るにも 帰路が判らないのです 」
「 わ、わかった 」
「 たが ひとつ聞かせてくれ おまえは 神の慈しみを受けておるのか? 」
「 それは 私にも判りません 」
「 今言える事は 私の意志もまた 唯一無二の存在では無いと 」








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2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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