( 雪原 )

「 広瀬主任、広瀬主任 」
「 起きてください 広瀬主任 」
秀一が 主任の頬を叩こうと 手を翳した瞬間
「 起きたから、 叩くなよ、 」
「 は~ 」秀一は 大きなため息を1つ漏らした
「 ところで 此処は何処だ 」
「 僕が ビバークしようと 穴を掘った雪の中です 」
「 沢嶋、おまえ登山の経験でも有るのか? 」
「 いいえ こんな事は初めてで 全部、映画の受け売りです 」
「 そうだ パイロットの木村君が見当たらないが 彼はどうした 」
「 残念ながら 操縦桿で胸を強打したらしく・・・ 」
秀一は うな垂れながら 首を左右に振った
「 そうか・・・ 」
「 なんにしろ 君と私が助かっただけでも 良しとするべきか 」
まだ 研修期間中の秀一は 今回 電力施設保全部に配属され
今此処に居る 広瀬主任と共にヘリに乗って 高圧線の点検視察に同行したのだが
途中 吹雪に遭い ヘリが高圧線に触れ墜落するという 惨事に見舞われたのであった
「 ん、なにか暖かいな、」
「 あっ、それはですね 寒がりの僕の為に母が荷物に入れた 小型の電気毛布です 」
「 沢嶋くん 君は良いのか 」「 君は寒がりなんだろ 」
「 僕は・・・ホットパンツを穿いていますから 大丈夫です 」
「 ホットパンツ? ショートパンツの事かね? 」
「 いえ 亘が いや多田倉という奴が僕の為に作ってくれた 電熱パンツなんです 」
「 多田倉という奴は 電力開発研究所に居て 其の中でも相当優秀な奴なんですよ 」
「 ああ 私も噂位は聞いた事が有るよ 」
「 奴が作ったこのパンツの充電パックから
           広瀬主任が使っておられる電気毛布の電力も賄っているんですよ 」
「 ほ~ なかなかのもんだね 」
「 しかし その充電パックも何時まで持つかは判らない 」
秀一は心の中で呟いた( 一年以上は持ちますよ 広瀬主任 )
「 ヘリに積んである 私の荷物の中に シュラフが入っているんだがなぁー 」
「 広瀬主任、僕が取ってきます 」そういうと秀一は 雪の壁に穴を開けた
途端 冷たい風と共に雪が活きよい良く 吹き込んで来た
「 沢嶋 出るな! 」
「 吹雪の中 外に出れば数メートル先の位置さえ判らなくなってしまうぞ 」
「 そうなれば 君は二度と此の場所に帰る事が出来なくなるやもしれん 」
「 ここは耐えて 吹雪が収まるのを待つのが 得策だろう 」
「 ほら これを食べなさい 」
広瀬主任は 徐にポケットから板チョコを取り出すと それを半分に割って秀一に差し出した
「 今度からは 冬山に行くなら 電気毛布よりこっちにしておくべきだぞ 」
秀一は 差し出された板チョコを少しかじってみると
なるほど 口に広がるこの甘さは 生気を保つのに十分な効果であると 納得させられる
「 ところで君は 独身だったね 」
「 はあ 」
「 恋人は居るのかね 」
「 まあ 約一名ほどは 」
「 こんな時に つまらん事を聞いてくると思うだろうが
           こう言う取り留めの無い会話が 意識を持続させるコツなんだよ 」
「 私には 小学五年生になる 娘が居てね 」
「 女の子はいいよ 私が帰宅すれば 連れ合いより先に出迎えてくれたり 」
「 一緒に散歩出来るのも 女の子ならではの事だからね 」
「 沢嶋君も 早く身を固めて 子供を作りなさい 」
「 僕も 結婚の意志は有るのですが まだまだ半人前で、」
ほんとうに 取りとめも無く話す内に どれほどの時間が経ったであろうかと思える頃
睡魔が二人の元に静かに忍び寄ってくる
遠くで 犬の吼える声がかすかに聞こえた 空耳かもしれないと 頭を振った其の時
いきなり頭上の雪が崩れ落ち 二人は太陽の光に満たされた
「 だいじょうぶですか? 」
二人が雪穴から助け出された頃には さすがに 体の末端は凍傷に蝕まれていた
タンカに乗せられ 雪原を進むソリの上で横たわる主任に 救助隊の一人が話しかけた
「 ヘリのパイロットは残念な事でしたが
            あなた方二人だけでも助かって本当に良かった 」
「 もし ヘリの燃料にでも引火していれば 全員 助かる事は無かったでしょう 」
秀一は 其の事については 思い当たる事がある
( 俺が 高圧線の電気を 真っ先に帯電蓄積したに違いない )
助かったものの しかし 疲れた・・・



 
 



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2017.02.20 Mon l リリカルSF小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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